「サムライうさぎ」

  

福島鉄平

集英社 ジャンプコミックス

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「うさぎはねェ… ピョンピョン跳ねて月まで飛ぼうとがんばってるヤツラだからね!」

  

身分を尊び体面を汚されることを嫌う武家社会。そんな窮屈な世界の中で生きる武士・宇田川伍助(15歳)は、その要領の悪さゆえにうだつの上がらない日々を送っていた。しかし、結婚という出来事が、幼い頃に父と兄に教えてもらった剣術が、そして妻・志乃の素直な言葉が、そんな日々に別れを告げさせる。志乃に夫として認めてもらうため、そして二人が楽しく生きるため、身分や体面にとらわれない天下一の剣術道場を作るべく、今日も伍助は月に向かって飛び跳ねる―――。

  

見知らぬ若い男女が夫婦となり、様々な出来事を通じて少しずつ互いを理解していく様子が何とも微笑ましくも羨ましい。特に志乃の健気さ、内助の功は素晴らしく、男性読者に「自分もこんな嫁さんがほしい!」と思わせるには十分で、例え世間を敵に回しても志乃のためにがんばろうとする伍助の気持ちもまた十分理解できる。一方、伍助の行動にしても、冷静に考えると結構とんでもないことばかりしているのだが、やたらと出てくる彼のモノローグにより根底に純粋な気持ちがあることを知っているためか多いに共感し応援したくなる。読者に「この夫婦には幸せになってほしい」と思わせる構成が見事だ。

  

また、そんな作品の雰囲気に合った可愛らしい絵柄も見どころだろう。といっても、巷に溢れる萌え絵とは若干趣きの異なる可愛らしさで、主に人物の表情(=感情の変化)を読者に伝えることに特化しており、顔のパーツの組み合わせや線の量の調整、ディフォルメやメリハリの付け方が非常に上手く、ここ一番の人物の表情にはハッと目を奪われる。が、その画風ゆえか戦闘シーンの一コマでも人物の顔の占める割合がやたらと大きい。別にそれで人物の動きが死んでいるわけでもなければ、そもそもバトル漫画というわけでもないのでそれほど気にはならないが、少し珍しい種類の描写だろう。

  

そして、作中には伍助と志乃の周りに集う剣術道場の門弟たちや、江戸随一の強さを誇り体面を保つことこそを命とする「講武館」の武士たち、さらに江戸に暮らす様々な人々などが登場するのだが、彼らについてはもう少し話が進んでから改めて言及したいと思う。ちなみにほとんどの人物はクセがありながらも面白い連中だ。

  

ただ、「うさぎの面」を始めとする妙ちくりんなデザインの数々や、軽いというかフザけたノリで人が酷い目に遭ったり死んだりする部分、時代考証の甘さなどは、特に大人な読者からしてみれば好き嫌いの分かれるところかもしれない。個人的にはあまり気にならない、というかむしろこのくらいハッチャケていた方が好きだし、基本的に少年向けの作品なのだからそこは割り切って読む心意気も大事だと思う。それに何より「読んだら元気の出る作品」として非常に素晴らしい出来なので、何かと現代のサラリーマンの悲哀を思わせる描写も多いことから、日々の仕事に疲れた大人にこそ是非一読してほしい作品だ。

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